役員の任期は伸ばせます

平成18年5月に会社法が施行されてだいぶ経ちますので、既に対応済みの会社が多いと思いますが、知らないともったいないので書いておきます。

株式会社の役員の任期は従来は取締役が2年(1期目は1年)、監査役が4年でしたが、会社法施行後は、株式に譲渡制限のある会社(閉鎖会社)であれば1年から10年までの間で自由に選べるようになりました。

役員が全員親族であったりといった変更の可能性が少ない会社は任期を長めにしたほうが重任等の登記の手間が少なくておすすめです。

任期が2年の場合は2年ごとに役員の改選を行い、登記をする必要がありますので、手間と費用がかかりますが、10年に伸ばせばそれが10年に1回になります。

任期を伸ばす場合は、ついでに役員の数についても見直してみましょう。

会社法になり、閉鎖会社の場合は役員を取締役1名だけにすることができます(監査役は不要にできます)。今まで名前を借りて取締役3名・監査役1名としてきた会社にとっては、実態に合わせ役員を減らすよい機会です。

見直しの際、注意すべき点としては、必ずしも任期が長ければよい場合だけではないということと、取締役と監査役で任期がずれないように気をつけるとよいと思います。

任期は、長ければ登記費用の節約になるのですが、家族以外に第三者が役員になっている場合など、途中で役員に辞めてもらいたくなることがあります。最初は仲良くやっていても、途中で対立し解任したくなった場合に、任期が残っている場合は残存任期の役員報酬につき役員報酬を支払わなければならなくなる可能性があります(会社法339条2項)。そうなると大変な損害を被りますので、10年ではなく、半分の5年や従来どおりの2年にしたままの会社も存在します。ここは会社の実情に合わせ見直してください。

任期のずれについてですが、例えば今年は取締役の任期満了による取締役改選の年で、来年が監査役改選の年になっている場合、連続して登記が必要になるため、今年監査役が辞任し、再度就任するなど、任期を調整する対策が従来から行われていました。

取締役の任期が2年、監査役が4年の場合、

(任期調整前)
平成25年 取締役改選
平成26年 監査役改選
平成27年 取締役改選
平成28年 役員任期満了による登記なし
平成29年 取締役改選
平成30年 監査役改選
平成31年 取締役改選

(任期調整後)
平成25年 取締役改選、監査役辞任・就任
平成26年 役員任期満了による登記なし
平成27年 取締役改選
平成28年 役員任期満了による登記なし
平成29年 取締役改選、監査役改選
平成30年 役員任期満了による登記なし
平成31年 取締役改選

上記のように登記の手間と費用が減らせます。

任期を伸ばす場合も、単純に伸ばすよりは、任期延長後最初の任期を定款の附則や株主総会の決議により、取締役・監査役それぞれ調整することで、将来の登記コストを減らすことが可能です。

ただ、任期を調整したとしても途中で役員の交代等で役員の登記が発生したり、再度任期がずれたりすることがあり得ますので、そんな小細工はしないという会社も多いかと思います。

会社・法人の登記が遅れたことによる過料

会社や法人の登記で、

「変更日を少し前の日付にしたいのですが?」

とか

「昨年役員変更したのですが登記を忘れていて、今やっても大丈夫でしょうか?」

といった問い合わせをよく受けます。

基本的に、何か登記事項(商号、役員、資本金、目的etc...)に変更があれば、どんなに過去の話でも登記はしなければなりません。

ですので、一昨年、いや10年前の商号変更登記などでも登記は可能ですが、一方で会社・法人の登記事項はすみやかに公示しなければ、登記簿を見て取引を行う関係者を害することになるため、罰則が定められています。

本店所在地の法務局では2週間以内、支店所在地の法務局では3週間以内に行います。

もし期限内に登記ができなかった場合は、代表者に過料が科されます。

過(あやまち)料は科(とが)料とは違って前科がつくのとは違います。自動車の駐車違反などのような秩序罰ですからお金を払えば済みます。

なお、こういった罰金等は代表者個人の責任で支払わなければならず、会社の経費(損金)にはなりません。

そして、普通の中小企業の場合にはそれほど厳しい運用がなされておらず、現状では多少の遅れでは過料が科されることはありません(上場企業などで例外はあるようですが)。法務局毎に、ある程度基準を決めて、特に遅れているものだけ過料を科すということになっているようです。

早ければ2ヶ月遅れで過料がくることもありますし、大体1年遅れると確実に過料になると思われます。

過料の額についてはっきりした基準はないようですが、数万円のこともあれば、10万円を超えることもあります。遅れれば遅れるほど高額になります。


蛇足ながら、不動産の権利の登記には期限はありません(表題部の登記は1ヶ月以内に行う必要があります)ので、遅れても過料はありません。その代わりに対抗力を備えることができないので、取引上不利になることがあります。

1円会社の解散期日

前回のエントリからだいぶ時間が経ってしまい申し訳ありませんでした。
こちらのブログ再開しますのでよろしくお願いいたします。

さて必要な会社では既に処理が終わっていることと思いますが、少し前に多かったのが、最低資本金の特例を使って株式会社を資本金1000万円未満(有限会社は300万円未満)で設立した方が、資本金を1000万円にする期限を経過してしまったが、解散しなくても済む方法はないかという相談です。

最低資本金の特例制度とは、最低資本金(当時は株式会社で1000万円、有限会社で300万円でした)未満で設立してもいいが、5年以内に資本金を最低資本金まで増資できなかったら解散するというものです。5年以内に解散するという文言は定款に記載し、登記もする必要がありました。

平成18年5月の会社法施行とともに最低資本金の規制はなくなりましたので、以降は増資をしなくても、解散事由抹消の登記だけすればよくなりました。

ちなみに5年の期限がきても何もしていない会社は登記情報提供サービスを使ってオンラインで登記簿の情報を閲覧することができなくなっていますので、それで解散事由抹消登記をしていないことがわかることもあります(法務局の窓口に行けば登記事項証明書は取れます)。

話を戻すと、結論としては5年を過ぎてしまってもなんとかする方法はあります。ただ、過去に遡って処理をすることになるので、登記が遅れたことにより過料が科されます。その点は心の準備が必要です。

1円会社設立でのよくあるミス

1円会社とは、資本金が1円の会社です(株式会社が1円で作れるというわけではありません。実費だけでも約20万円かかります)。

以前は株式会社の最低資本金は1000万円でしたが、平成15年に1円会社が解禁され、資本金を1円として設立する人が現れました。

当時1円会社を設立したのはコンサルタント業など借入が必要ない業種で、資本金1円という話題性を狙った法人化が多かったように思います。

資本金は会社の設立時・増資時にいくらお金を入れたかを表していますが、現在そのお金が残っているかを保証するものではありません。

とはいえ、資本金で会社の規模や信用を判断する人も多いので、大きいに越したことはありません。

今でも資本金1円で会社を設立する人はいますし、銀行融資を受ける必要がない事業でしたら、それ自体が駄目ということはないのですが、、、

よく見るのが、資本金1円、そして発行可能株式総数1000株とやっちゃってる会社なんですよね!

これは明らかに失敗だと思います。設立時に専門家が関与しているなら、もっと授権枠(発行可能株式総数)を増やすようアドバイスすべきです。

発行可能株式総数1000株は、1株の払込金額が1万円とか5万円の会社ならいいんですが、資本金1円ということは、当然1株の払込金額が1円で、設立時の株数は1株です。

この会社が増資をしようとするとどうなるか?

発行可能株式総数1000株のままだと資本金は1000円までしか増資できませんが、さすがに増資後の資本金が1000円という会社はないでしょう。

資本金をもっと増やすには、前もって定款変更して発行可能株式総数を増やさなくてはなりません。

例えば、資本金を500万円にしたいのであれば、発行可能株式総数を500万株以上にします。

この手続きだけで登録免許税が3万円かかります。司法書士に依頼すれば、その報酬も追加でかかります。

ただでさえ増資の費用がかかるのに、依頼者に余計な費用を負担させることになってしまいます。

このように、設立後に何か登記事項を変更すると結構な費用がかかることが多いので、設立後すぐ定款変更の登記などということがないよう、設立時の定款を作成する際は、そのあたりの配慮も欠かせません。

司法書士が関与するなら、基本中の基本ですけどね。

資本金1050万円の株式会社

新しく関与する会社の登記簿を入手して、資本金が1000万円を少しだけ超えているのを見つけると、登記簿から何か

やっちゃった感

が漂う気がするのは私だけでしょうか?

何も考えずに資本金が1000万円をわずかに超える(例えば1050万円)会社を作ってしまうと、事業年度の1期目が終わって確定申告をするときに、地方税が高額になるのを知って驚くことになります。

東京で従業員50名以下の場合、法人住民税の均等割額は、年間7万円になります。これは、利益がなくても法人として営業しているだけでかかる税金です。

資本金が1000万円を1円でも超えると、この税金が年間18万円になります(詳しくは、こちら参照)。

開業間もない会社は事業がまだ軌道に乗らず、少しでもコストを減らしたいと考えると思いますので、11万円の差は痛いはずです。しかも減資をしない限りずっと年間11万円の余計な出費が続くことになります。

有償減資をして資本金を1000万円以下にすれば、均等割の額を下げることができますが、減資をするには官報公告や登記が必要で、実費と司法書士報酬をあわせると20万円以上はかかります(なお、減資をするにはいろいろ注意点がありますので、実際取りかかる前に専門家にご相談くださいね)。

設立時の資本金についてはもう一つポイントがあって、消費税の関係から1000万円未満としている会社が多いです。

資本金を1000万円未満にしておくと、2年間消費税を納めなくてよくなります。会社にもよりますがこれで年間数十万円は納税額が違ってきます。

おそらく、資本金を1050万円にしたのは、会社法施行前の株式会社は原則資本金が1000万円以上必要だったので、最低額より少しだけ多くして見栄えをよくしておこう、という意図だったと思うのですが、それが裏目に出てしまったのですね。

法務局に相談すると、申請書の書き方や書類の作成方法を教えてくれますが、上記のようなアドバイスはもらえません。資本金が1050万円でも合法で商法・会社法上は全く問題ないからです。

登記は意外と落とし穴が多いです。転ばぬ先の杖として司法書士を活用することをおすすめします。